お盆の上にはルビー色の液体の入った水差しと、
湯気を立てているシチュウの入った大きなおなべ
がありました。
「あれっ!スプンやお皿がないや?」
最初その事に気づいたのは鋭だった。
つづいて真里砂も言い出した。
「コップもよ! そっちの大きい包みに入ってない?」
そこで三人はめいめい一つづつふくろを開けて
みる事にした。
雄輝がふくろをしらべてみると、それぞれ、色のちがうひもで
口の所をくくってあったので、
彼は青いひものかかったふくろを選び出して少し、ひものはじを
ひっぱって見た。
「開けたら ドカ
と、鋭が笑いながら言った。
「もっとも、殺すんだったら、食事に毒をまぜた方が、早いけどね!」
「たとえ毒入りであろうとも……、ええい。このひもほどけないな
……ぼくは食べるね! 空腹でぶったおれそうだよ。
……ああ、やっと開(あ)いた。」
「わ!なにが入ってる?」とあとの二人がのぞきこんだ。
雄輝がふくろの中に手をつっこむと、すぐに何かかたいものにぶつかった。
「イテッ、これは何だろう? 手の甲をすりむいちゃったよ。
やあ!これは剣だよ。しかも本物だ。………………………………
束に何かついてるけど、暗くて見えないな。火のそばへ行こうよ。」
その剣は長さが50cmほどで、黄金(こがね)細工のさやには
海のように深い青色をした宝石が、ちりばめられ、
それに光があたってキラキラとひかり輝いていた。
「ほら!こっちのふくろにも同じのが入ってるよ!」
さっきから 緑色のひものふくろと とっくんでいた鋭が呼んだ。
彼の手にも光輝く黄金の剣(つるぎ)がにぎられていた。
「あらっ?でも少し違ってるわ。ほら、こっちの剣、さやについて
いる宝石(いし)青いでしょう? 鋭 のは緑色だもの」
「へえ、本当だ。他の所は寸分違わず同じ造りなのにな。」
「私、こっちのふくろも開けてみるわ。これにも入ってるかも
しれないもの……」
こう言って真里砂(マーシャ)は赤いひものかかったふくろを取り上げた。
「あ、あったあった。これにも剣が入ってるわ。……
! ちょっと来て、この剣(つるぎ)は銀製よ、他のと違うわ!」
確かにその剣は他の二本とは違っていた。
第一に それは 輝くばかりの白銀でできており、
束とさやには炎のようにゆらめく光を秘めた真紅の石が
はめこまれていた。
そして、他の二つの剣よりも小型で、真里砂の身長にぴったり
あう大きさだった。
それぞれに剣が一本づつか! 他になにが入ってるのが見てみようよ。」
と、雄輝が言った。三人がめいめいのふくろに手を入れると
一番ほしがっていた物
が入っていた。
「やっと食事が食べられるわ! でも、この底の方に入っているのは
何かしら?」
「先に食事をしようよ。“腹がへっては戦(いく)さができぬ、だよ」
と、鋭が言った。
「賛成!」と、あとの二人が同時にさけんだ。
みんな胃ぶくろがからっぽだった。
しばらくの間、森は静かになった。
聞こえるのは ただ、三人の使っているスプーンがお皿にあたって
コトコトいう音とたき火がパチパチとはぜる音だけだった。
シチュウはとてもたくさんあったので、三人がめいめいたっぷり
取っても、まだ少し残っていた。
「それ以上おかわりしようなんて気はないでしょうね」
「今日の所はね。明日になればもっと食べるよ。」片目をつぶって鋭が答えた。
「さあ!」雄輝が立ちながら言った。「ふくろの中味を全部調べちゃおう。」
雄輝と鋭はそれぞれ受け持ちのふくろ(最初に自分で開いたやつ)を取って、中味を地面にぶちまけた。
しかし、真里砂はそうはしなかった。
「だって、こわれものが入っているかもしれないじゃない。」
これは非常に懸命な考えだった。
なぜなら、彼女のふくろには小さな方位磁石がはいっていたので。
そしてそれには細い銀のくさりがついていて首にかけるように
なっていた。
「なんて細かい細工なのかしら! 剣にスプーン、ナイフや
フォークも。まるで童話に出てくる小人の細工物みたい
だわ。」真里砂が一人つぶやきながらそれを首に
かけようとした時、
「そのとおりじゃ!」
真里砂の背後でわれ鐘を打ち砕いたような
さもなければ大砲を百発同時に打ったような
ものすごいドラ声が響いた。
もちろん鋭や雄輝の声ではない。
ではいったいだれがいるというのだろう?
真里砂はこわごわふりむいた。
しかし、後ろにはだれもおらず、ただ5mほど向こう
にある老かしが、さもゆかいそうに枝をゆすっている
だけだった。
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