『テラザニアの斎姫連(さいきれん)』
尊貴(とき)真扉(まさと)
着想 一九九一年 三月 十六日
改題着筆 同 四月二十六日
脱稿 目標 五月二十六日
げらげら!
と、書き込んであります☆
一、開国記念式典会場
二、惑星《最涯(さいはて)》にて
三、連邦警察第七支部
四、調整局員資格取得
五、大使の護衛と側近
六、祭連星域聖家紀行(さいれんせいいきせいけきこう)
七、紫妃(しき)・斎姫(さいき)・青鬼(せいき)
"The Psy-Tech Ladies of Terazania
presente by Toki, Masato
with the party of "Oris-Kearan"
(「コクヨ ケ−31 20×20」使用、シャーペン縦書き)
一、開国記念式典
星史十七年〇八〇三。
地球人の開拓惑星連邦(テラザニア)が異星人類の星間連盟(リスタルラーナ)と国交条約を結んで十七年になる。
国境惑星《最涯》軌道に位置する公易第七宙港は折しも任期満了で帰国の途にある対リス大使ムベナ・バンガ=ロイシを迎えて、近隣星域中の著名人や高官がつめかけていた。
収容客数二千人を誇る加重力空間。
遠心力を利用する地球式宙居にしてはあまりに広いため床が弓なりに反(そ)ってしまう。
それを逆手にとって壁ぎわからでも顔をあげれば見おろせるよう設計された中央の壇上。
すらりと背筋の伸びて遠目にも美しい女性が、はりのある柔らかい声で式次第を告げようとしていた。
「“女史および博士がた(ソリ・セラ・ヴィ)”おあつまりのみなさま。“本日はようこそ(リ・セーテ・エクセラ)”本日はようこそ
「つまり紙一重(かみひとえ)だと?」
と、切り返したことのある彼女は、特別扱いを面倒がって必要に応じて情報を偽装する。
犯罪防止のために不可能なはずのそれを、片手でやってしまえる程度には、確かにずばぬけているのである。
あっさりした銀鼠色の礼装に、蘭の花束の緑と純白。欧亜(おうあ)混淆(こんこう)系らしい微妙な色調の肌に、砂漠民風の頭被いはややそぐわない気もするが、部族の服としてではなくおしゃれとして?
淡い肌と黒い髪の民蔵風の頭被のとりあわせに灰色の服は地味
白桃色
桃白朱
鈍い銀色の衣装のうえに
白に近い純粋な灰色の髪が広がった。
茶褐色?(変装中のサキ=セラのイラストあり)
必然性か舞台効果か?
茶乳色/乳紅色
白木に朱をのせた淡い肌色
黄桃色
朱白色
く飾っていれば鑑賞価値は高い。
似合うじゃないかと喜んで眺めるキリアスには、性別の自覚は皆無と言ってよかった。
豪華であるとも洗練されたとも言いがたいが、一生懸命飾られており、
貧しいテラザニア?
あたりは開港十年式典を祝う著名人や高官であふれている。惑星《大鼻》軌道に停泊中の航宙客船《蒼陽》の、収容客数二千を誇る加重力会議場だ。
誰それの挨拶が終わるたびにセラはにっこり微笑んで式次第を進行させる。
同じセリフ意味の言葉を交互に繰り返す、流麗な連邦公用語(テラザニアン)と正確な星間連盟後(リスタルラン)。
堂に入った司会ぶりといい、知的で清楚な外見といい、やや年齢は若いが、彼女の本職が通詞でないとは、誰も思わないだろうが。
目あての人物を探して、あいまあいまに会場の四方へ視線をめぐらせる。目あての人物を探すのを忘れてはいない。
キルも同様。
シーン一、記念式典
act.I
周囲の参加者よりアタマひとつ抜きんでる長身の、鮮やかな青い短髪はたいそう人目をひいた。
紙のように白い肌。
冷たい黄色の両眼。
警備官の深緑の制服北方民族の立ち襟の深緑の衣装を身につけ壁際で不動の姿勢をとるによりかかって立つ美貌の青年。
着飾った婦人連は何か事故でも起きて口をきく機会はないものかとそわそわし、が入れかわり口説きもし、熱い秋波を送りもするが、気づかない風を装って無礼でない程度に冷たく断って、超然としているかに見える。
よく注意すれば目じりに皮肉なシワがより、笑いたいのをこらえているのがわかる。
広い会場のむこう側、壇上にたつ相棒の反応がおかしくてたまらない。
呆れるというよりは怒っているような、憤然/憮然とした視線が、営業用の完璧な笑顔のあいまにときおり飛んでくる。
無断借用した警備艦の他人の正装があまりにも
キルは性別の自覚のないスケベーなのか、セラをかあいがっているのか、それとも本来のレイらしく、いじめているのか?
☆ セラの礼装の意味はない。
生きた彫像のような無表情で美女の群れと相棒をまとめて煙にまきつつ、出入口すべてを視界におさめて獲物を待っている。
盛大な拍手とともに対リ大使ムベラが洒脱な説話を披露して退場し、セラが、式典の終了とそのまま懇親会へ移行する旨、はりのある声で手際よく放送する。
四方の通用口が開いて移動卓を押した接待官が列をなして入場。
豪勢な料理。
色鮮やかな飲料。
日頃は質実な食生活の人々がそちこちで一斉に盆や卓に群らがる。
そのざわめきにまぎれて女性客がひとり、遅れて入ってきたのを二人は見逃さなかった。
会場には二種類の人間がいる。
純粋に記念日を祝っている一般客と、その
そんな、犯罪者と正義の味方の動きを秘かに探りながらセラとキルは別の目的を持つ。
《闇》(バイラ)の下層幹部、《紫昏(しこん)の》と二つ名をとるライラ人物との接触。
交渉し、応じてくれれば今日この場からの逃亡を助け、そのまま二人の属する機関で保護する、と。
キリアスならずとも目を楽しませた美人な司会者が、高名な喜劇俳優にひきついで退場する。
乾杯の声。
笑い話にわきかえる会場に、待つほどもなく私服にあらためたセラが戻る。
すらりとした姿体をひきたてつつ周囲にとけこむ地味めな正装で人の波をかきわけ、やはり警備艦の服を脱いだ 結局、いやがらせ以外の意味はなかったのだキルと合流する。
「彼女だね?」
宴(うたげ)はまさにたけなわで、開会と同時に参加者すべてが厳重な身元調査をうける。
《闇》の下層幹部で今回の主犯、《紫昏(しこん)の》と二つ名を持つライラに。
こちらの正体を明かし承諾が得られれば、この場からの逃亡を助け、そのまま二人の所属する機関で保護する、と。
手際の良い交渉はセラの方が適任だ。
キリアスキルは途中で警察の邪魔を入れぬよう、一歩さがって周囲に気をくばる。
高名な占術師として誰にも素顔を知られていなかった、やや高年の婦人は、濃色の眼鏡と同じ濃いスミレ色の長衣をまとい、黒髪をなびかせていた。
「失礼、ライラ・ミタ=マンデラ女史ですか?」
少女が小さく声をかけるより数瞬早く、《紫昏の》は驚愕の表情でふりかえり、あえぐように蒼白の頬で言った。
「あんたたちは……」
「あんたたちだね?!」
「あの……?」
予想外の反応に、言葉をつぐ暇は、なかった。
女は結いあげた髪に手をやり、飾りの石をひきぬくなり床めがけて叩きつけた。
二人ともライラの顔を知らず、写真すらなかったが、隠す気もないらしい輝やくばかりの気波は、一目でわかった。
かたわらを抜きさりつつ確認のためだけにセラは言い、ああとうなずいてキルもあとを追う。
もとより交渉はセラの方が適任だ。途中で警察に邪魔されることのないよう、一歩さがって周囲に気をくばる。
「失礼、(名前)ですか?」
少女が声をかけるより一瞬早く、ライラ《紫昏の》は驚愕の表情で振り返り、あえぐように数瞬の間ののち、言った。
「あんた達は……。あんたたちだね?!」
「あの、」
言葉をつぐ暇は、なかった。
女は結いあげた髪に手をやり、飾りの石をひき抜くなり床めがけて叩きつけた。
閃光。
空白。
悲鳴。
混乱。
(オークション?)
取り引きの親玉の合図をうけて潜入していた密輸に関わる者たちは一斉に同じ光弾を放った。
殺傷性はまったくないが視力の回復に数十分を要する。
一時的に盲目となった何も知らない客たちが恐慌におちいる。張り込んでいた警察側とて、すでに役には立たない。
騒ぎがおきかけたところへ、どんな仕掛けでか、遠くでたて続けの爆発音。
ぎしり。と、厭な音を発して。
広い会場に重力を加えていた船の回転柱が停止したらしい。
斜めの衝撃。体重のなくなる感覚。
続く数瞬で長い裳裾やずるずるの民族衣装の二千人は、かつてぜいたくな高さが自慢の天井だった無重量空間に、手に手をとって舞い散っていた。
料理の大皿があとを追い、シャンパングラスがかつて中味だった不定形の液体とからまりあって飛んでゆく。
シーン二、惑星都市
星姫(セライル)と新月騎士(キリアス)というありがちなとりあわせは偽名である。
本名はこの際おく。
問題は、なぜ今回の旅で名を伏せて行動しなければいけないのかキルは知らない、ということだった。
言いだしたのはセラで二人の上司である人物もすんなり承認した。
一連の偽造手続きもあっという間だったのでロクに問いつめる機会さえ逃がしているのだが。
時に星史十七年〇八〇三☆
時に星史十七年〇八〇三。既知の宇宙には三つの国家がある。あまり詳しく書かない。
文明が発達しすぎて停滞のはじまりかkた星間連盟(リスタルラーナ)。
貴族と奴隷階級の相剋の続く宇宙帝国ジレイシャ。
そして、成立していまだ半世紀に満たない開拓惑星連邦(テラザニア) 旧称・地球統一政府、である。
三年前に遭遇したばかりのジレイシャとは実質的には軍事力の探りあいという危うい開国
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