「サキコ・ラン=アークタス。通称サキ・ラン。……フム」
 先に送られて来ていた書類の一部をざっと思い返しながら、“ボス”、リグビー,リテロ(リグビーが名字である)は、目の前に立つ少女を見るともなしにながめていた。
 いや、ながめるなどというのは誤りである。知らぬ者の目から見ればぼんやりした一べつ、ともとれる表情の下で、“ボス”=保安局特殊そう査課長は、瞬時にして少女の全てを把握していた。
 身長171〜2cm、身長約27ピアレス、体重473レア。胸囲B・W・H、上から15−10−14.7。髪・腰の上までの長髪、自毛、青味がかった灰色。瞳、同色、コンタクトなし。はだの色  黄金がかった淡いアイボリー……
いや、そんな事はどうでも良かった。全て書類通り、立体写真通り。ただ彼の冷徹な黒い瞳を(それとわからない程とは言え)ゆらめかせたのは、少女が一見してかなり華しゃそうな外見を持っている事だった。
 27ピアレスと言えば、女性にしてはかなりの長身である。15−10−14.7、すらりと引きしまってはいるが、脚の肉づきも良い。はっきり言って、比類まれな、という程の黄金の優れたスポーツ選手にのみまれに見い出される、完璧に均整のとれたプロポーションと、言って良かった。それが、なぜ、ほっそりと優しげな印象を与えるのか  ……
しばらく、(といっても、コンマ2.3秒)黙思した後に、リグビー=彼、は、解答を後刻に譲って立ち上がった。
どのみち、この少女は今日から完全に彼の指揮下に入ったのだし、観察する機会はいくらでも得られる筈なのである。
 
  彼女=サキは、外見より余程緊張してその会見に臨んでいた。
今日から、この男=彼の指揮下に入るのである。命、及び全運命をゆだねる相手と言って良い。濃色のサングラスのかげにひそんだ暗く、冷たい瞳。しゅう念のように伸びた闇のストレートヘア。細く高い鼻筋、白い肌。サキの目にとまった男の特徴と言えば、せいぜいがこのくらいのものであったろう。しかし、彼女にはそれで十分だった。大丈夫、この人は それ以上を知る必要はとりあえず……
 ないのである。
 
  そこは、とある巨大な地下構築物の中に一室であった。広いフロア。白々と証明が周囲を照らしている。
「良かろう。」リグビーはうなずいた。「今日から君はわたしの指揮下に入る。わたしはリグビー、リグビー,リテロだ。」確認。サキは肯く。
「特捜課の性格は既に知っている事と思う。特捜課は保安局の一分室でありながら、保安局との間に命令系統を置かない。特捜課はありとあらゆる情報の収集と共に刑事・民事・及び国際関係等における大規模な陰謀・犯罪のせん滅を任務とし、物量作戦の必要な時にのみ、保安局長との信頼関係に基づいて協力を要請する。  保安局一般側で我々の手を必要とした場合にも同様で、わたしの所へ出動依頼が来る。」
再びサキは肯く。彼女の場合、弱冠17歳での入課というのは、それと同じ伝手(ルート)をたどった挙句のものだったので、ある。
「君は現保安局長の要請でこの課に受け入れられる事になった。説明を受けた君の“特殊能力”というものについても、わたしなりの認識は持ったつもりだ。  一抹の不安は残るが」
「超能力というものは、理論的には誰しもが持ち得る筈の素養なのです。ただ発現するかしないかと言うだけで」
「それは聞いた」
 リグビーは  書類に記載もれだった彼女の特質を発見して内心きょう嘆しながら  素っ気なく言った。
「書類、資料、それから君を推してきた人間たちの人物に信用をおいて、特捜課は、異例として君を即日採用で活動網にくみ入れる事にした。」
「はい」サキは手で示されて椅子に腰を降ろした。これでリグビーリッガーにはサキに関する疑問点が3つに増える事になった。  最初の一つと、なめらかでどこか優しい芯のある肉声の声楽的な音域分類名称。そして、この地味めだたないが時折り息をのむ程に美しい洗練された挙措動作、及び躾が、いかなる人物のどんな教育によって培われたものであるか  である。
「第一の任務を言う。君はこの後直ちに特捜課養成所に入所。半年以内に第三課程をり修し、いずれの課目も中の上〜上の中程度の成績をとらなければならない。」


     リグビー・リテロ
     リガー
     スガル・リグビー

 
  サキは顔色一つ、顔筋一筋動かしはしなかったがあからさまに表情をかえるような礼儀知らずな真似こそしなかったが、それでも瞳の奥に不満と疑問の色が浮かぶのをまでは隠しおおせる事ができなかった。養成所の卒業までには8年かかる。そのようなムダを費やしたくなかったからこそ、無理を言って伝手をたどらせてもらったのではなかったか。
「にらむな」
彼=スガル,リグビーが、この男にしては打ち解けたといって良い表情で唇の端をつり上げた。彼にしては、会って話をするのこそ始めて直接顔を合わせるのこそ初めてとは言え、目の前の少女の人柄を満更知らないわけではない。これまで2〜3度、この彼女が否応なしにまきこまれてしまった事件を通じて、部下から話を聞きもしたし、映りの悪い映話(ビジフォン)を通じてごしに二言三言かわした事もある。少女=サキは有能だった。銃その他の武器の扱い、格闘技術、探索には不可欠の特有の勘のひらめき  ……。その点では、とても素人だなどとは思えない。即日実戦に投入しても大丈夫だ、という確信がある。しかし。
「第三課程の教育課目は、変装術、暗号学、隠密行動における基礎知識と実習訓練などだ。承知しておいてもらうが、特捜課員の活動においては、これまで君の見てきたようなハードボイルドな面が占める割合は、低いのだ。大部分が地味なスパイ行動に占められていると言っていい。  ちょっとした不満程度でいちいち目の色を変えているようでは、生きて帰っては来られん。
もう一度言う。サキ・ラン=アークタス。君は今から養成所に行き、普通なら最低一年かかる第三課程をり修、半年以内に戻って来る事。それとどうじに……」
サキは座り直した。彼=スガルの言葉に、ただ訓練を命じるのとは異ったを感じたのである。
スガルはふっと言葉を切って、この異常に勘の良い少女  今は、スガルも、サキが少女と女性nちょうど中間点にいるのだという事に気づいていたが  をながめ直した。  これも超能力とやらの一部なのだろうか?
「半年後に、ジーストの国家元首が我がリスタルラーナを訪れる。」
 サキは肯いた。知っている。未だ政府要人の一部にしか通達されていない筈の機密事項ではあるが。
「その際の警護の大半は、通例で、我が特捜課が請け負う事になっている。臨時に大人数を必要とする任務には、指揮者を除いて全て養成所から動員する」
 サキの脳裏にある考えがひらめいたが、先回りして話し出す程、軽薄ではなかった。
  ……その勘の良さも超能力とやらの内か?」
「え?」
サキは不意をつかれてキョトンとする。サキには予知能力は殆ど無い。テレパシーは自己暗示で封じてある。自分の勘の良さと、超能力とを、それまで結びつけて考えた事は無かった。
「まあいい」スガルがあいまいに手を振る。
「その養成所に、逆スパイが潜入。人数・性別・階級などは一切不明だが、かなり組織立った動きを見せて情報を外部へ流し続けている。サキ・ラン、任務は、第三課程の終了、逆スパイを派遣して来る組織の正体の探索、同じくその目的の調査。計3つだ。いずれも半年以内に遣りとげろ」
「了解。」
 りんとした、涼やかで一本芯の通った声で短かく答えると、サキは立ち上がって部屋から出て行こうとした。
「それから」
 少女の野鹿のような後姿に目を遣りながら、男はあわてるでもなしにつけ加えた。
「おまえの任務と正体について知っているのは、わたしの他には養成副所長のみだ。そのつもりで行動しろ。」
 サキは黙って肯くと出て行った。それだけ聞けば、解る。
   つまり、養成所長自身もが、クサイ、のだ…………。
 
 
    (第三者描写!!) 
 
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 
 

 養成センターと保安局本部は、きっかり惑星半周分の間を隔てて建造されている。万ヶ一どちらか一方の機能が破壊された場合を想定して、遅滞なく組織の移動ができるよう備えてあるのだ。
 あれから三日後、身の回りの品の入ったショルダーバッグ一つを携えて、サキは幾重ものゲートをくぐり抜けた。
 「ようこそ、サキ,ラン。書類は回って来ている。第三課程に編入。体術訓練ははぶく、だな?」
 「はい、教官。よろしくお願いします」
 「む、わしは第3課教育主任のルゾンだ。」

 
 
 
 
               
ぁぁぁ……☆ スケバン刑事の、影響モロ出し……(^◇^;)……
 
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