どうして  ……?
なぜサキはあんな風に、いつも孤独(ひとり)でいようとするのか? それがエリーにはどうしても理解できなかった。サキは、いつも誰よりもほがらかに笑って見せるんだのに、ある時ふっと気がついてみると、その笑顔の下からどうしようもない真実にも似た淋しさがのぞいているのだ。
彼女がいつになくその固く閉じこもったからの存在を見せつけてしまってから、かれこれ3時間近くもエリーはその事ばかりを落ち着かなく考え続けていた。
 それに、サキの安否も気にかかるのだ。
 自分が友人として愛している人間が一人っきりで闘っているかも知れないような時に、側に行って手助けする事ができないという事実は、ひどい劣等感となって心にのしかかって来る。エリーには、彼女について行くだけの能力もないのである。
すぐ隣りではケイが、いかにものんきそうにして何かを五線紙に書きつけていた。
地球の古代楽器に関するレポートの一環なのだろう。指を使うのがおっくうなのか、速度が遅くなるから提出に間に合わないのか、体の左側  座っているひじのちょっと上あたりに  写本している何かの総符を宙に浮かばせて、そのまま残留思念を頼りにあちらこちらとテレコキネシスでページをめくっている。
   悪いくせだわ。やめさせなくては。
 そうは思いながらも声をかけるではなく、エリーは何気なしに壁の時計へ目をやった。あと二時間でレイが戻って来る。
すぐにサキを探しに行ってもらったところで見つけ出せるのはいつの事なのか。
 (それまで何事も無ければ良いのだけれど  ……)全て自分の無力さが災いしているのだ。
 「えっ? 何か言った?」
 知らないうちに心の壁にすき間ができていたのだろう。ケイが彼女の心の断片を聞きかじったらしい。
さらに自分の無能力さを思い知らされて苦々しく思いながらも、エリーはつとめておだやかに首を振った。
 「……なんでもなくてよ、ケイ。それより本を扱う時にはきちんと手をお使いなさいな。サイコキネシスで宙に漂よわせておくなんて、行儀が悪くてよ。」
 ケイは首をすくめて本を引き寄せると、今度はちゃっかり書く方のペンを手から離して動かしている。エリーは少しばかり噴きだしそうにしたが、笑みは頬に張りついたまま、手の平の雪のように溶けくずれていってしまった。
 
 
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