1.
 
四月二日、早朝に、サキは誕生日も待たずに出発した。
サキが自分の誕生日をすっぽかすのは、これが最初だった。
サユリが、トランクを持って、門の所までついてきた。
ヘレナが時間どおりに迎えに来た。
  サキ、どうしても今日行ってしまうの? どうしても、わたし  
「もう、寄宿舎の方には連絡しちゃったんだよ、姉さん。」
そう、そうねとサユリがつぶやいた。そうなのよね…………。
「それじゃ。」
サキの方が先に立って門扉を押し開け、そのまま振り返ってヘレナを待った。
サユリは……サキに何か言いたかったけれど、心の中の想いをどう言葉に表わしたらいいのかわからなかった。
  ごめんなさい  ありがとう  許してね  さようなら。
「……ヘレナさん。」
「はい」
「あの  あの子を、頼みます。あの子、夜寝る時暗いのを恐がるの。それから、それから  
こっくりと、ヘレナはうなずいた。
一人っ子で育ったわたしでは役不足かも知れませんけど、お姉さんにかわって、わたしがサキをひきうけます。
その頼もしさが、この姉妹のすき間に橋をわたすことになるかもしれないと、ふと、サユリには思われた。
 朝まだき、もやの中、サキとヘレナはだまったまま郊外の道を歩きだした。
始発の路線バス(リニアモーター)に乗り、地球外周鉄道に乗りかえ、一回途中下車して海べりを歩いてから行こうと言っていたのは、サキの方だった。
 ユーロピアン大陸南西部、1000年のその昔、あの大異変のさらに200年も前からそこにあるという全寮制高等寄宿学校(ギムナジウム)  アロウ・スクールには、前々日からの連絡どうり、夕刻、食事の間際についた。
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