エスパッション・シリーズ 第一巻
     「サキ・幼ない頃」
 
 
 わたしは小さい頃からひどく変わった子供だった。
もっとも、今でもよく友人達から……あなたって変わってるのねェ……とジト目で言われているのだけれど、そのわたしから見ても、昔のわたしの風変わりさはたいしたものだった。 

 
   あれは、いくつの頃だったろう。
人間は死期が近づくと幼ない頃を思いだすと言うけれど、わたしは最近、二人の女の子が母親とつれだって海辺を歩いている夢を見るようになった。
それはわたしの記憶の中でも一番古いものの一つで、二人の女の子は姉さんとわたしだった。
 あれはわたしが3歳、ねえさんが9歳の時。
ねえさんの舞踊専門学校(バリエ・スクール)の発表会の帰りに、会場のそばの遊歩道をわたしたちは歩いていた。
たぶん、わたしが始めて舞踊(バリエ)に関心を持ったのもこの時だったのだと思う。
始めて見た本物の舞踊(バリエ)と、表彰式の時に最年少受賞者のねえさんといっしょに写真にとられたことで、わたしはすっかり興奮して普段の倍もはしゃいだ。
 冬の終りのやわらかい光が遊歩道のまわりの白樺林の中で笑っていて、あつらえてもらったばかりのよそいきが暑苦しいくらいだったのを覚えている。
 通りが終る所に白い石段があって、そこを降りるとぷんと潮の香が鼻をつく、波の静かな磯浜があった。
大型のロケットバスが、沖合のかなたに光っている白い人工海上都市(マリンドームシティ)から飛び発った。
碧(みどり)や青や所によっては銀色の小さな淵のあいだを探し歩いて、海に来るといつもやるように光っている小石や、確か宝貝という名だったと思うけれど大きいのや小さいのをポケットいっぱいにつめこんでいると、不意に岩の向うからかあさんとサユリ姉さんの言い争そう声が聞こえてきた。
二人は、わたしが遊びながら遠くへ行ったと思っていたのだろう。
わたしはなぜだか出て行ってはいけないような気がして岩かげで息をひそめていた。
 ショックだった。
まだ自分と母さんと父さんと姉さんだけが世界の大部分を占めていた頃で、わたしには年の近い友達もいなかったし姉さんとは年が離れていたから、自分でかんしゃくをおこしてあたりちらす以外、
 
 
              (未完)

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