あんまり入れ子構造にするのもマズイとは思うが。

 
                        1991.02.10
 
  ○ 序 ○
 
 地球が統一されてから30年ほど過ぎた。
 異星人類リスタルラーノとの第一遭遇を経て、公式名称を地球系開拓惑星連邦  通称・テラザニア  と改め、年号を宇宙暦としてから、20余年。まだまだ混乱も、難問も、山積みになっている。
 かたや星間連盟リスタルラーナ、高度に発達しすぎて停滞期を迎えていた文明圏にとっては、未知の文化形態との接触は数千年ぶりの賦活剤だった。
 つまり、地球からの留学生にとって、自国の文物を紹介するというのは、とてもいいおカネになる、ということである  
 
 
     ○
 
 
 ここは、リスタルラーナの首都惑星上にある総合芸術学府、アール・ニィ。留学生、と書いたが、地球でいう大学の概念とはだいぶ異なる。むしろ、規模は全然ちがうが、芸術村、とか呼んだ方がしっくり来るだろう。
 アール・ニィ府民の認定を得た者は、死ぬまで学生であると同時に、入府した瞬間から自分の才能で食べていくことになる。住居とアトリエ、講堂やステージなどは連盟政府から無償で提供されているが、管理運営は自治組織によってであり、自治会費用に食費に被服費、専攻分野の素材や道具類、そういったものはすべて自己負担なうえに、原則として外部からの仕送りは認められていない。自治会に納める学資も稼げない程度の才能なら、やめてしまえ、という、実力主義のリスタルラーナならではの、容謝のない制度である。
 とはいえ、それひとつでは収入につながらない芸、というのも多い。しぜん、複数の人間が集まり、音楽系なら演奏団単位、服飾なら意匠から立体染色までの工房単位で、外貨を獲得することになる。日中の講座時間帯以外の活動だから、地球でいえば学部外の同好会にあたるが、彼らにとってはそれが生活の手段でもある。要するに、アール・ニィ在住の学生は、全員がセミ・プロで  しかも片手間の趣味でもあることが有利に働いて、企業所属の職能集団より、むしろ高水準であることを誇っていたりするのだった。
  そんな共同体が そういった、ひとつの都市全体が芸術業(?)で盛え、種々雑多な共同体が数あるなかでも、とりわけみずぎわだった個性と能力が吹きだまってくる場所というのはやはりできるもので、ここ数年、自治会への納付金トップの記録を更新しているのが、オリ・ケアラン。リスタルラーナの上古語で“史書”を意味する名の、映像集団である。
 
 出資企業との交渉に出向いていた連中が笑いながら室内になだれこんできた。どうやら全面的に条件を呑ませたらしい。もっとも、これまでの5年間で、地球政府の統一に至る歴史を実録もの風に再現したシリーズで大当りをとったという実績がある。多少のわがままなら黙っていても通るというものだ。
 今度の企画は最終戦争伝説。異星文明のリスタルラーナのみならず、地球文化圏の人間にとってこそ、謎と迷信の彼方への好奇心を満足させる作品となるはずだ。
 すでに地球政府の文化庁から協賛と、考古学界の全面協力の約束をとりつけてある。それどころか、早々と、教材としての使用の申し入れが教育庁からあったという。資金源はたいそう潤沢だ。資料探しにも力がはいろうというものである。地球本星の考古史料機構に超時通信でアクセスした端末のすみで料金標示が走っているが……。オリ・ケアランの本部兼作業室は、うわんとうなるように賑やかだった。
 奥まった一角では、続きものに当然なる予定の、全体の構成を定めるべく、脚本担当者たちがかなり混乱した表情でよりあつまっている。
 紙片をかたてに大方のながれを説明しているのは灰色の髪の地球人だ。古文書解読の達人で、何冊も出している訳本のおかげで彼女自身が学資や生活費に困るということは決してないのだが、何故かひきずりこまれて以来、いつのまにか主要メンバーにおさまっている。
 「  で、以上が最後にこれが、今回のタネ本に使えそうな文献の時代と著者なんだけど」
 言葉が切れたとたん、地球公用語でもリスタルランでも形容しがたいような擬音で悲鳴をあげて何人かが机につっぷした。
 「うわあ〜〜、ややこいっ」
 誰が言いだした企画か知らないが、地球考古学界の専門家ですら最終戦争前後の地球史を理解しやすいように説明するというのは困難なのである。それをまず、自分で覚えたうえで、ひとにわかりやすく、かつ面白く、しかも今回は誰か実在人物を主人公に据えての物語形式で脚本を書け……というのが、監督兼総団長からの厳命である。言われた方の苦労ときたら前回までの五作の比ではない。かといって、意地っぱりの負けず嫌いがオリ・ケアランの身上だから、ここで出来ませんなぞと言うくらいなら本課の単位を犠牲にしてでも、期日までに仕上げてのけるに違いない。
 こうなると本末転倒の見本だな。
 歴史考証担当の地球人  サキ・ランという  は、内心で苦笑した。地球式の大学とちがって卒業年限のないアール・ニィだからこそ出来るぜいだくた。
 「とにかく、」
 と、脚本家のなかでもまとめ役の、ひときわ小柄なリスタルラーノが片手をあげて言う。
 「ちょっとマトを絞ろう。ひとくちに最終戦争伝説と言っても、前後100年くらいの幅があるワケだし、舞台の範囲も広すぎる。そのうえ移時空装置なんてモンが出てきてくれた日には  ……」
 「ちょっとサキ、確認しておきたいけど、その超古代文明とやらも地球式の迷信の類と違うの? 時間移動なんてマネは私達リスタルラーナの技術でだって考えもつかないわよ」
 「ところがこれは史実として正確な記録が残ってるんだな」
 「この……なんだっけ、チョウノウリョク? とかいうのも本当に実在したの?」
 「うん、そう。」
 「信じらんない。思っただけで物を動かしたりできる人間の心理描写なんて……どうやって表現しろって……」
 「でも主人公に据えるとしたら、このコがいちばん面白そうじゃない?」
 「ええっ、あたしとしてはコロニスツ成立あたりがやってみたい」
 「時代が早過ぎるよ。そこから始めて一年放映で、どうやって最終期まで……」
  
 
 
 
 「しかしよく地球人類って絶滅しなかったものだね」
 
 
 
 

 俗説
 
 地球第三期文明(いまを第四期とする)
 
 
                 .

コメント

乃々
乃々
2007年3月8日21:03

相互させて頂きました!よろしくお願いします!

りす
りす
2007年4月1日23:38

どうも〜♪ (^_^)/

ごぶさたしてしまって、申し訳ありません☆

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