『告別式・栗原伸』
 
☆(ユミコから清へ)
 「絶対的な、愛情なんてもの、信じてみたくもなかったけれど、兄さんとあなたを見ていると考えが違ってくるわ。心の中で声がするのよ。“もしかしたらそうじゃないかも知れない”って。あなたを見ていると、それが判るのよ、第三者のあたしにすら。
 大丈夫、兄さんにも、いつかきっと通じる。」
 
☆「完全否定のぎりぎり一歩手前で、
  本気で信じていらっしゃるのね、清さん」
 
☆「狼、ろう。あたしの小さな狼(ウルフ)。何処へ行ったの?」
 「  もう、“小さな”じゃないぜ、母さん。」
 
 「本当に、あなたは伯父様によく似ているわ。
 兄さんも、よくそうやって、あたしやエミリーを守ってくれた。」
 「好が?」
 「そうよ。意外?」
 「いや  納得する。」
 
 どうどうと音をたててきしむ世界の中で、小さなちいさなおだやかな陽だまりが揺れている。 
 

 
 
 

 
☆「ア・ルーヴァ・ターレの子供達よ」
 宇宙放送の終了。ムーンIIの・力の砦では高い露台(バルコニー)に立って公女ミネルバが語りはじめていた。
 「我がアルバトーレは宗主ゴウダとコロニスツ連合にじゅんじます。荷造りをなさい。子らを学校から呼び帰しなさい!
                    ……………… 」
 
 公女は去っていった。後を任された首席監務官アルヤ・アラムが露台の中央へと進み出た。
「・移民船の発進は第8月8日とする。
 ・抜けたい者はそのように申し出よ。同日、第2ポートから、地表への船を出す。
 ・移民船への配乗は地域別とする。…………」
 
 
 遂に、音をたてて恒星移住計画(プロジェクト)は疾りはじめたのだ。
 

 
 
 

 
◎「父上の仇、覚悟っ!」
 黄金色の髪をなびかせて女戦士セレニアは最後の部屋に駆け入って来た。
 「よくぞ来た」
 杉谷はボタンにかけた指に力をこめた。
 「はうっっ!!」
 一瞬の尖光が室内を襲った。セレニア・アルテミスの体が宙に飛んだ。
 「マリアン! オーダ! キャスリーンっ!」
 叩きつけられた壁の上からなおも必死に振り向いて部下達の名を鋭く叫んだ。
 (自分に唯一欠けているのはこの不動性だ、  好は思った。)
 コロニスツ軍最精鋭を誇る無敵のアマゾネス部隊である。しかしそこに通廊の形はすでになく、放射光の乱舞だけがただ渦を巻いている。
 「  みんな!!」
 弱々しく悲鳴をあげる娘もずるずると、叩きつけられた壁の上から無力に滑り落ちて行くのみである。内臓損傷で、放っておかれればとうてい救かり得ぬ傷であることを、戦場に慣れた杉谷の目は素速く見抜いていた。
 「貴様  
 なおも誇り高き純血種の少女は立ち上がろうともがく。それへ、冷たい一瞥を向けて、彼は床の一画の持ち手を引き上げていた。
 脱出路である。
 「3分で、楽になれるぞ」
 彼は部屋の起爆装置を冷酷にセットして、脱出路のハッチを閉じた。
 
 
(注:セレニア・アルテミスのイラストあり。
  「しっかりしたアゴと、濃いめの金髪と、
   緑がかった茶色の瞳。享年二十二歳。」

 
 
 

 
 “青狼伝説”
  
 それはごくありふれた日常(いつも)の出来事だった。盗賊部隊と人の言う“青狼伝説”団の勢いを聞きつけて尋ねあてて来る血気にはやった若者を、首領自らが見分しては仲間に加えるか否かを決めるという。
 今日のは吊りあがった黒い瞳をもつ極東系の少年だった。
 「クォ・ハォといいます。こう書くんだけれど」
 「ほう。」
 少年が指で、床にまかれた砂の上に書く文字を見て首領は目を細めた。彼自身もいくらかは極東の血をひき、その文化をもあるていど受け継いでいる人間である。それが、精神の深さ高さを示す達筆であることは、見れば判った。そしてその他に  
 「好(ハォ)と、いうのか。」
 彼が小さく呟やき、一瞬、なにごとかをなつかしむような遠い眼をした事に気づいた者は、おそらくあるまい。けれど彼はたしかに、そうしたのだ。
 「いいだろう。まだ少し柄が小さいみたいだが、そんなのは放っておきゃいやでも育つからな。今どきそれだけの字がちゃんと書ける奴ってのは珍しい。オレでもそうはいかんぞ。……他には何処と何処の言葉を使える?」
 「はい。」
 少年が控え目に、だが威勢よく上げる言語数を内心舌を巻く思いでチェックしながら、これは案外ひろいものをしたのかもしれないぞと彼は考えていた。
 その後刻である。他にもいろいろ首領としての雑事を片づけて広天幕を出た彼のあとを、逆側からすべり出るようにして追ってくるものがいた。
 「狼(おおかみ)。」
 彼は歩をゆるめて振りむいた。一団の首領としての彼の通称はあくまでも狼(ウルフ)である。かつてあった最はての島国のことばで彼を呼ぶ者は  それは彼の両親の母国でもあったのだから、昔のことは知らず  今ではただ1人だけになっていた。同様の血筋をもつ、団の参謀格のひとり、まりこ・アニルである。
 「好(ハォ)という言葉に、なにか思い入れでもあって?」
 首領はかすかに顔をしかめて見せた。
 「よく、見ていやがる。」
 「あたりまえ。何のためのエンパス能力だと思っているの?」
 
 
 
                    真里呼(まりこ)

 
 
 
 
   あなたの道が
   あなた自身のもので ありますように!!

 
 
 
 人は、生まれた時に、自分の名前をさえ名乗らない。
 もっとも愛しい相手の名をこそ、呼びつづけているのである。
 
 
 

 彼らは“過去”より女神たちの手により とばされた。
 未来の運命をかえるために。
 それはなんという皮肉であったことだろう。
 神々の予定された計画をさえ無視して  

 
 
 
 
 
   思う力の強さのゆえに そなたの心はむくわれぬ
 
 
 
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