なにかに魅かれ追われるように国を出た。
 幸い、メシのたねだけは確保してある。
 写真だ。
 戦場を撮り、クーデターを撮り、飢餓を撮り、たましいと獣たちを撮り  
 みずから硬質ガラスの一個の レンズ カメラと化して、彼は、さすらいつづけた。
 
 日本には彼のいるべき場所はなかったようなのだ。なにか  誰かが彼を呼んでいた。生まれたときから。精神(こころ)につけた、糸をひくように。
 
 運命と、ひとはそれを呼んだのかもしれない。彼は、どんなところでも、風と水からことばを得ることができた。
 
 
 
 
 
 ♪ 最期の一滴 あるいて二滴
   飲まずにゆくならみち教よう
   ひとにやるなら  
   たんと飲まそ。      ♪
 
 
 「変わった歌だ」
 カサカサに乾いた男は意識の奥でつぶやいた。
 

 
 
 
 
 


  北へ還る、南へ往く。

    むかしびと。

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