from diary of Ei Kiyomine. 
 8月1日 
 AM7:05当地着。現在位置詳細不明。気候・走行時間から考えて北海道〜青森あたりか。質問するが解答なし。平野もしくは広大な三角州と思われる。 
 当着早々燎野さんと別れる。別れ際の態度不審。 
 朝食AM7:27。味も素っ気もないが栄養価計算されている。朝食後、西谷一尋(にしや・かずひろ)に紹介される。僕専属のトレーナーorマネージャーもしくは「実験体No.7,Ei Kiyomine」の実験分析 
 僕の監督のもとに 


 
 「うえ〜〜……」
 日頃の躾の良さもどこへやら、あてがわれた個室に1人とり残されるやいなや鋭は服を脱ごうともせずにベッドの上へ倒れ込んだ。
 「疲れた。めいっぱい疲れた。4km遠泳のがまだましだ。ウ〜〜〜〜〜……」
 人前での大人ぶった表情も全て放り出してしまう。
 既に深夜に近い時限だった。あれから、朝食もそこそこに一日中、“健康診断”なる怪しげなものに狩り出されていたのだ。
 (健康診断? はっきり言って能力テスト以外の何物でもないじゃないか、人をバカにして)
 ごろりと頭の下に手を組んで仰向けになりながら、この、年よりもはるかにませた判断力を持つ少年は考える。
 見なれぬ精密機器類。指紋から脳波から眼底毛細血管に至る識別可能部位の厳密なチェック。IQや一般知識・科学的専門知識の審査はまあ許せるにしても、反射能力、運動神経、さらには一見、付き添い(コンダクター)風の男の世間話に見せかけた、性格・思想・深層心理の判定!!
 鋭の気に障ったのは、むろん、そういった検査をされるという事ではなかった。そんなことはここ、得体の知れぬ組織“センター”へ来ようと決めた時から予測されてしかるべき事だったし、思ったよりはずっと扱いも丁寧だ。  鋭としてははなから非人格的なモルモット扱いをうける覚悟でいたのだから。
 ただ、気にかかっているのは  ……
 (チェ、非科学的だ)
 二日続きの緊張が育ち盛りの体をくたくたにしてしまったのだろう。鋭はそのままふっ、と吸い込まれるように寝入ってしまっていた。
 その夜……
 
   リョーノ! やっと会えた!!
 
 遠くでの人の話し声が、深く眠り続ける鋭の心の中に響いて来た。
 
   待ってたよ、待ってた! ずっとずっと……
   わりィ。遅くなっちまったよな。
   目をつけられるのに時間がかかって。
   そんなこと! きみは  来てくれた。それだけで十分だよ。
   なんだ、疑ってたのか? ひでぇなァ、約束したろ。
 
 「う、ん。誰……」 鋭は淀みに捉われたままかすかに身じろぐ。
 「誰……」
 
   そう、だね。きみは、そうなんだよね。ホントに  
   あ、おい! 泣いてんのか? おまえ  疲れてんじゃないか?
   うん。でも、もう大丈夫だよ。何があっても。きみが、いるから。
 
 きみが、いるから。そんなフレーズが、わけもなく頭の中をリピートする。
 
   さあ、あまり感傷にふけっていてもしようがないよね。
   外のニュースを聞かせてよ。みんな、元気? リーツはどうしてる?
   ああ。もっとも、おれもここ半月ほど会ってねェけどね。
   ただ  おまえがいなくなってからあと、妙にあちこちに
   緑衣隊どもがうろつきまわるようになってきた。
   今のところ、大した事件にはなってないが……
 
 
 緑衣隊? ……知らず、妙に気にかかる言葉に、少年の意識はついに深い淵を離れて上昇を始めた。緑衣隊  ……何かしら、妙に凶々しい、不吉で昏い単語。
 緑の  緑の服の  ……
 
 しかし、鋭がまだ彼の肉体(からだ)の呪縛から逃れ切れずにいるうちに、こんな言葉がかすかに聞こえてきて、とだえた。
 

   待って! 誰か  誰かが、この“声”を聞いてる。
   なに……? おまえの他にも心話のできる奴がいるの?
   違う……こんな感じ……今までなかった。
   敵、か?!
   ううん……違う……と思う……でも  ……
   しようがねえな、とにかく黙ろうぜ。
   近いうちに直かに顔会わせる機会ができなけりゃ、俺の方で
   何とか口実つけておまえの居る所まで行けるようにするよ。
   あの白い棟だろ? 何階?
   2階……でも、無茶はだめだよ。
   わーってるって。じゃ、な。
   うん。じゃ……
   おっと。ちょい待ち、
   え?
   あーいしてるぜ、ティ。
   ばっ☆ ……ばかっ! っっっ
   ……………………

 「  ……夢、か。」
 何がなし頬を染めながら、目覚めて鋭はそうつぶやいた。まだ最後の笑い声が耳に残っている。不可思議な夢  
 だが彼はまだ心理学にはさほどの興味を抱いていなかったし、フロイド式に夢判断を試みるには、育ち盛りの肉体の要求が強すぎた。
そして。
 かけた覚えのないモーニング・コールに無理矢理たたき起こされた時、少年の心は既に昨夜の夢を忘れてしまっていたのである。
  
 翌日からハードスケジュールな毎日が始まった。学習、学習、ひたすら叩き込まれるばかりである。食事と入浴以外、ほとんど常に何かを覚えさせられ続け(むろん睡眠時間にも)、日曜日などというものは与えられなかった。それが半月以上続き、鋭の他の数人の少年達もほぼ同じ状態におかれているらしく、友人ができるどころかほとんど口を利く機会すらない。彼らは皆一様に青白い表情をしてノルマを果たすのに追われ、子供らしい遊びの欲求も若々しい応用能力も、全てを封じこまれてしまっているようだ。
 ただ、鋭だけはその中で一人異彩を放っていた。
 
 その日からハードスケジュールな毎日が始まった。
 鋭の連れて来られた所は、ここ、国立科学技術開発研究所、こと《センター》の西端中央に位置する《教育・能力開発法研究棟》だった。北辺には心理・社会・情報・統計学関係の研究棟が並び、南方には医学、薬学、生体科・化学、外科技術関係、細菌学などの集中ブロックがある。比較的高い場所からは、中央部の南北に走る電子技術・工学系の地区をはさんで東半部を占める、地学・天文学・宇宙工学・原子物理学   big science 系の巨大施設が点在する、驚ろくほど広いフィールドを垣間見ることができた。
 土地は平盤で、北西はるかに丘陵地とそれに続く山脈がおぼろにかすんで浮かんで見える以外、《センター》の敷地も、その周囲に広がる廣野も、ほとんどと言ってよいほど起伏がない。まったく狭い日本のどこにこうも単調な景観が存在し得たのか、晴れた日に荒原の南端に輝やく細い銀環はどうやら水平線らしい、と、社会の授業のたびに科学雑誌を開げていたことを悔やみながら少年は考える。
 鋭をはじめ、能力開発実験のモルモット兼《センター》のエリート候補生である子供たちは、3歳〜17歳くらいの総勢50人ほどだった。
うち30数名は比較的年のいったたくましい少年たちばかりで、宇宙・航空力学系の試験飛行士としての訓練。残りの10余人が科・化学者の卵、平均IQ220の高知能児である。規律と罰則に基くスパルタ式訓練で徹底した集団生活を営んでいるアストロノーツ・グループと違い、彼ら高知能児には完全なケース・バイ・ケース。個人指導主義がとり入れられていた。
 
           


 
 孤人(こひと)
 
In Japan, there isn’t a history of rebolution(?).
Though, Japanese can’t give up the mind what statesmen are so great.
 

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