山合いをぬう一筋の清流を、囲むかたちで発達した盆地の、特産は木材に炭、草の実で染めた手織りの絹布。
 
 気性の荒い木挽きの野郎衆、情の細やかな桑摘みの女たち。
 戦乱の世も年貢の苦しみも、知らぬげに生き続けるこの小さな山国を、代々の在の者たちは "善き野(おおの)" と呼んだ。
 
 ……やがて、馬子の通った川沿いの山道にはじめての鉄路がはしり汽笛がひびき、いつかまたディーゼルへ、電車へと移ろいゆく足早な時節のなかを……
 
 たゆまずに伝えられる、この野にはひとつの心があった。

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