磯原家の末弟は典型的な登校拒否で、小学校を卒業させてもらったのは殆どお情けだった。学校へ行くのを嫌がるようになった理由を、本人は口をつぐんで云わないが、クラスでは清が混血だということへのからかいや、かなり悪質ないじめもあったのだと、かばおうとして一緒に泥玉をぶつけられた子供が証言している。
 なめらかなココア色の肌にくせの強い巻き毛。
 つり上がった大きな茶の瞳もイキゾチックな、大層きれいな子供で、いつでも少し不思議そうな表情をして、一歩さがって友達の遊びを見ているような、温和しくて、優しく、成績も良く……当然、周囲の大人のウケもよいけれど、そういった無意識のひいきが重なるほどに、クラスの乱暴者たちの反感は大きくなっていくらしかった。
 
 ひとりの始めたいじめ、というやてゃ面白半分に周囲へ伝染する。なにをされても告げ口も仕返しもできない、物静かでシンの強い子供ではあったけれども、5年生の半ばから理由もなく吐いたり、腹痛を訴えては保健室へ逃避するようになり、欠席が増え、6年のクラスがえで仲の良い子と分けられてしまうと、もう完全に、他の子のいる間は教室に姿をあらわそうとはしなかった。
 
 混血で、外見が日本人とは違うということで仲間はずれの対象にされたのは、3人いる兄達も同じ条件だったが、彼らがいずれも体力や反射神経にものを言わせて仲間内での地位を確保できたのに比べ、もともとがいくぶん病気がちで内弁慶に育ってしまった末弟には、どうやら黙って耐える以外の打解策は見出せずにいるらしい。
 
 
 さほど人の出入りのある町でもないので、引っ越しを手伝ってくれた御近所の口から噂はすぐに広まったらしい。入学式の日、母につきそわれて出かけた清はすっかり見せものというか、そぼくな好奇心の対象で、教室の近い新入生はもとより、他の校舎からも好奇心にかられた上級生たちが短い休憩時間にぞろぞろと見にくる始末。
 緊張とい縮のあまり発熱して、タクシーで帰宅。翌日は、けっきょく枕から頭が上がらなかった。
 
 

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