1.浮く人
 
 浮く人はいるようでいないようで、何時(いつ)でも居るものだという。空に似ていて空でなく、空気そのもののようで空気でもないのだそうだ。
 浮く人が何処から来るのか、何処へ還るのか、誰も知らない。のほんとしたその顔を見ていると誰でもそんなことはどうでも良くなってしまう。
 大抵の場合そこらの空気の中をふわふわと漂っている。お日さんのある日にはのんびり横寝をしている事もあるが、一番よく見かけられる格好はといえば、あぐらをかいて頭を下に浮いているんだそうな。気が向くと木の枝に逆さにぶら下がっていたりもするらしい。
 ただ、雨はいけない。たいがいの事には平気な "浮く人" 族も、水っ気だけは大層苦手で、少しでも小雨のちらつく朝ともなると、銘々がお気に入りの農家の納屋や台所で、はりにつかまって1日過ごすのだ。
 そんな時に気のいいかみさん連中が食事に招んでやると、喜んでふわふわ降りて来て椅子に座る格好だけマネをする。実は尻は最後まで宙に浮いたまんまなのだが、そんな事は大した事じゃないし、浮く人は皆たいそう大人しい行儀のいい連中なので、誰も気に留めない。
 浮く人は口を利かない。喋らないし字も書かない。ので、浮く人が普段どんな暮らし振りをしているのかはまるで判らないのだ。
 別に働いているわけじゃない。果樹や小動物を捕っている所を見た者もいないし、踊りをするわけでもない。無論、口が利けないのだから小唄も歌わない。ただいつてもふわふわ空中を漂っているだけなのだ。
 
 
 
 
 南のアニャンワマンの国の田舎……暖かい空気がいい?

コメント

お気に入り日記の更新

最新のコメント

日記内を検索